子どものこんな症状は、起立性調節障害
小児起立性調節障害の全人的治療
起立性調節障害相談室(Q&Aコーナー)
低血圧サイト

企画・監修:田中 英高
(大阪医科大学小児科准教授)
企画協力:松島 礼子
(済生会吹田病院小児科)

起立性調節障害 最近のトピックス


専門家向けクリニカルカンファレンスNo1
(外傷体験がきっかけとなって発症した起立性調節障害例)
14歳の男子のケースです(個人情報の関係で一部変更してあります)。朝起不良、反復する意識消失発作が主訴です。意識消失に関しては、発作に関するはっきりとした誘因がなく、また数分で覚醒はするが、その後30分〜1時間ぐらいは立ち上がれない状態があり、これまで心原性やてんかんに関して、様々に精査されてきましたが、検査では異常は認められていません。トレッドミル施行時にやはり気分不良の訴えがあったので、中断し、その後、これまでと同様に呼びかけに反応しない状態になったが、数分で回復しています。意識消失に先行して、気分不良、次第に気が遠くなることもあり、また起立試験では体位性頻脈症候群(POTS)の診断基準を満たしていて、意識消失の本質は失神発作で、原因は神経調節性失神(NMS)かと考えています。循環器科の先生によると心臓が原因であることは、まずありえないとの診断でした。
実はこの患者さんは、空手の練習試合中に顔面パンチを受け、そのまま転等して意識消失したというエピソードがあり、その後、今回の意識消失発作及び朝起き不良が何度も出現しています。目撃情報によれば「顔面パンチ」は、パンチにならないほどで顔に触れるか触れないか、だったようです。実際に額に腫れもできないほど軽いものだったようであり、脳MRI,MRAを含めた総ての検査で全く異常はなかったようです。ただ、本人はかなりショックだったようで、もう空手は嫌がっているようです。起立試験は、調子の悪いときの直後に心拍数(62→130)と異常に上昇して、そのまま気分不良で中断しています。また起床直後は心拍が140ぐらいのこともあるようです。

質問1.さて、この子どもさんはどのような疾患を考えればよいでしょうか?どんな検査をしたらいいでしょうか?

質問2.もし、起立性調節障害としたら外傷体験が契機で起こるのでしょうか?

<質問1について>
一番注意すべき疾患は、心臓源性の失神です。不整脈、QT延長、大動脈狭窄、心筋症、原発性肺高血圧など、頻度は5%程度と報告されています。致死的な疾患ですので、12誘導心電図、ホルター心電図、超音波エコー、トレッドミル試験は必要です。
このケースでは、電気生理カテーテル検査以外はすべて行ったようですが、心臓に異常は見られなかったようです。しかし、稀ながら心電図などに異変が見られるケースがあり、注意が必要です。心臓に関連した失神は、関連しない失神と比較して、危険であることから、ホルター心電図は有用であるという症例報告が東京大学医学部小児科からなされています。
(学校で突然死した、運動誘発性心房細動を合併した血管迷走神経性失神の1例。
増谷聡1)3)、賀藤均1)、菱俊雄1)、磯田貴義1)、渋谷和彦1)、星山雅樹1)、村川裕二2)、柳澤正義1)
1)東京大学医学部小児科2)東京大学医学部循環器内科3)埼玉医科大学小児心臓科 心臓, 32(5) : 431-437, 2000.)

二番目に注意すべき疾患は、てんかん発作です。何度か脳波検査がなされましたが、異常はみられなかったようです。その他にも考えられる疾患がありますが、詳しくは、「各種症状のページ」をご覧下さい。

<質問2について>
さて、起立性調節障害が外傷を契機に起こるかどうか、議論する前に、以下の点について考えてみたいと思います。
1.心拍数(62→130)と異常に上昇して、起立直後すぐに気分不良ということから考えますと、POTSよりは、起立直後性低血圧重症型で頻脈を伴うタイプだと思います。私達も失神になるケースを経験しましたが、NMSでは脳血流が一気に低下して血管収縮が起こり、持続する失神をきたすタイプがあると海外でも報告されています。このようなケースでは、Finometerがあれば便利ですね。

2.朝起き不良がありますので、もともと起立性調節障害があったのでしょう。ふらつきなどの本人の自覚があまりなかったのかもしれません。空手の大会会場の室温が高いと、血管拡張が起こり、心拍が増加しやすく、精神緊張も重なって、ますます起立直後性低血圧→心搏増加→NMSは起こしやすい環境であったと思います。

3.最近分かったことでは、起立性調節障害には、条件反射が形成されて悪化するケースがあるようです。つまり、レモンを口に入れるとヨダレが出るのは通常の神経反射ですが、レモンを見ただけでもヨダレが出てしまうことを条件反射と言います。またこのプロセスが起こることを条件付けと言います。受験の不快刺激―POTSという条件付けが生じた中学生が、治療によって一旦改善していたものの、模擬テストの刺激によってその日だけPOTSが増悪するエピソードが繰り返されました。このようなケースを稀ならず経験しますので、強烈な不快刺激と自律神経反射がリンクするのではないかと考えられます。不登校の子ども達が、登校前になって気分不良を訴えるのは、単なる心因反応(心の反応)にとどまらず、自律神経の条件反射を引き起こして起立性調節障害が悪化していることも考える必要があります。
以上のことを考え合わせると、今回の提示されたケースも、クラブや学校などの不快刺激によってINOH や POTSが容易に誘発されたのではないでしょうか。心的外傷後ストレス障害という病気にも(PTSD)もそのような機序が隠れていて、そのために難治性になるのではないかと思っています。

4.治療は、通常の起立性調節障害に行うことになります。非薬物療法、および薬物療法を行います。改善するまでに時間がかかりますが根気よくやる必要があります。このような基本治療をしながら、不快刺激と自律神経条件反射のリンクが無くなるまでゆっくり待つことも大切です。場合によっては、PTSDに対する再曝露法によって脱感作する、という方法もありますが、起立性調節障害に効果があるかどうかは分かっていません。
しかし、なんといっても一番大切なことは、このような分かりにくいケースにおいても、起立性調節障害という自律神経系の身体疾患にかかっているということを、保護者、学校の先生が充分に理解することだと思います。そして子どもの回復に合わせた受容的なサポートを継続していくことが重要だと考えられます。
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